発達障害の就労移行支援|利用料は?対象・期間・サービス内容も解説障害福祉サービスの経営者・管理者の皆様、日々の事業運営、お疲れ様でございます。近年、発達障害のある方の社会参加への関心が高まる中、「就労移行支援について詳しく知りたい」「利用料はどのくらいかかるのだろうか?」といった利用者様やご家族からのご相談が増えているのではないでしょうか。制度が複雑な面もあり、「正確な情報を分かりやすく伝えるのが難しい…」と感じていらっしゃる方もおられるかもしれません。私も長年にわたり、福祉現場のICT化などを通じて皆様の事業運営に寄り添う中で、適切な情報提供の重要性を日々感じております。この記事では、発達障害のある方の利用も多い「就労移行支援」について、その基本的な仕組みから、多くの方が気にされる利用料の詳細、さらに対象となる方、利用期間、サービス内容まで、経営者・管理者の皆様が押さえておくべき点を網羅的に解説してまいります。この記事が、皆様の事業所運営と、利用者様への的確な情報提供の一助となれば幸いです。目次発達障害のある方の就職をサポート「就労移行支援」とは?まずはじめに、「就労移行支援」がどのようなサービスなのか、基本的なところから確認しておきましょう。これは障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つで、一般企業への就職を目指す障害のある方々を対象に、必要な知識やスキル向上のための訓練、就職活動のサポート、そして就職後の職場定着支援などを提供するものです。私たち福祉サービスを提供する側としては、利用者様一人ひとりの個性と希望に寄り添い、その方の可能性を最大限に引き出すお手伝いをすることが使命だと考えております。就労移行支援の目的とサービス内容就労移行支援の主な目的は、障害のある方が一般企業で安定して働き続けることができるように支援することです。そのために、様々なサービスが提供されます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。職業訓練: パソコンスキル、ビジネスマナー、コミュニケーション能力など、就職に必要なスキルの習得をサポートします。職場探し・就職活動支援: ハローワークへの同行、履歴書・職務経歴書の作成支援、面接練習など、就職活動全般をサポートします。職場実習: 実際の企業で仕事を体験する機会を提供し、適性を見極めたり、仕事への理解を深めたりします。職場定着支援: 就職後も、職場での悩み相談や、企業との調整などを行い、長く働き続けられるようサポートします。(※就職後6ヶ月間が標準ですが、必要に応じて延長も可能です)事業所ごとに特色があり、例えばプログラミングやデザインなど専門的なスキル習得に特化したプログラムを提供しているところもありますね。対象となる方(発達障害のある方も利用可能)就労移行支援の対象となるのは、「就労を希望する65歳未満の障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者」です。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、難病のある方が対象となります。重要な点として、障害者手帳の有無は必ずしも必須ではありません。医師の診断書や、自治体の判断などによって、サービスの必要性が認められれば利用できる場合があります。近年、発達障害(ASD、ADHD、LDなど)の診断を受けている方や、その疑いがある方の利用も増加傾向にあります。利用者様の状況に合わせて、柔軟に対応していくことが求められます。利用できる期間は?原則2年間就労移行支援を利用できる期間は、原則として最長2年間(24ヶ月)と定められています。この期間内に、必要な訓練を受け、就職活動を行い、就職を目指します。必要に応じて、自治体の判断で最大1年間(12ヶ月)の延長が認められる場合もあります。利用者様の状況や進捗に合わせて、適切な利用期間について検討し、必要であれば延長申請のサポートを行うことも大切です。【重要】就労移行支援の利用料はいくら?料金体系を分かりやすく解説利用者様やご家族から最も多く寄せられる質問の一つが、利用料に関することではないでしょうか。「費用はどれくらいかかるのか」「負担が大きいのではないか」といった不安の声も聞かれます。ここでは、就労移行支援の利用料の仕組みについて、詳しく見ていきましょう。結論から申しますと、多くの場合、自己負担なく利用できるケースが多いのが実情です。これは、国の制度に基づいているためです。利用料が決まる仕組み:世帯収入に応じた月額上限就労移行支援を含む障害福祉サービスの利用料は、サービス提供にかかった費用の原則1割を利用者が負担しますが、世帯の収入状況に応じて1ヶ月あたりの利用者負担額の上限(負担上限月額)が定められており、多くの方は無料または低額で利用しています。ここでの「世帯」の範囲は、利用者ご本人が18歳以上の場合は「本人とその配偶者」の収入(住民税所得割額)で判断されます。親や兄弟姉妹と同居していても、その方々の収入は原則として算定に含まれません。18歳未満の場合は、保護者の属する住民基本台帳での世帯となります。利用者負担上限月額の区分(生活保護・低所得・一般1・一般2)利用者負担上限月額は、世帯の所得に応じて以下の4つの区分に分けられます。 (2025年時点の一般的な区分です。詳細はお住まいの自治体にご確認ください)区分世帯の収入状況負担上限月額生活保護生活保護受給世帯0円低所得市町村民税非課税世帯0円一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円未満 ※)※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は市町村民税課税世帯の場合9,300円一般2上記以外(一般1を除く市町村民税課税世帯)37,200円例えば、世帯収入が市町村民税非課税(低所得区分)であれば、負担上限月額は0円となり、利用料はかかりません。また、一般1の区分(例えば、年収がおおむね670万円以下の世帯)であっても、月の負担上限は9,300円となります。サービスの利用日数に関わらず、この上限額を超える請求はありません。なぜ無料や低負担に?約9割が自己負担なしで利用できる理由厚生労働省の調査によると、実際に就労移行支援を利用している方の約9割が、利用者負担額0円(生活保護または低所得区分)でサービスを利用されているとされています。これは、前述の通り、18歳以上の方の場合、世帯収入は本人と配偶者の収入のみで判断されるため、ご本人が働いていない(収入がない)ケースが多いこと、また、働いていたとしても市町村民税非課税となる収入水準の方が多いことが理由として考えられます。この点は、利用者様やご家族が安心してサービス利用を検討できる大きなポイントですので、しっかりと説明して差し上げることが大切ですね。注意!交通費や昼食代などの費用は自己負担?利用料(サービス費の1割負担分)については上記の通りですが、注意が必要なのは、事業所に通うための交通費や、昼食代などです。これらは原則として自己負担となります。ただし、事業所によっては昼食を提供していたり(実費負担の場合が多い)、交通費の助成制度を設けていたりする場合もあります。また、お住まいの自治体によっては、独自の交通費助成制度がある場合も考えられます。これらの点については、利用を検討されている事業所や、お住まいの自治体の障害福祉窓口に確認するよう、ご案内すると良いでしょう。利用する前に知っておきたい就労移行支援のメリットと注意点就労移行支援は、就職を目指す上で多くのメリットがありますが、一方で留意しておくべき点もあります。利用者様にサービス内容を説明する際には、良い面だけでなく、注意点も併せてお伝えすることで、より深い理解と信頼につながると考えます。メリット:専門的な訓練、就職活動サポート、定着支援主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。個別性の高い支援: 一人ひとりの障害特性や希望、能力に合わせた個別支援計画に基づき、きめ細やかなサポートを受けられます。専門スキルの習得: ビジネスマナーから専門スキルまで、就職に必要な知識・能力を体系的に学べます。就職活動の包括的サポート: 求人情報の提供、応募書類の添削、面接対策など、就職活動を全面的にバックアップしてもらえます。企業実習などを通じて、自分に合った仕事を見つけやすくなります。就職後の定着支援: 就職して終わりではなく、その後も職場に慣れ、安定して働き続けられるようにサポート(定着支援)を受けられる点は大きな安心材料です。仲間との出会い: 同じ目標を持つ仲間と交流することで、悩みを共有したり、励まし合ったりすることができます。注意点:利用期間の制限、必ず就職できる保証はない一方で、以下のような点も理解しておく必要があります。利用期間の制限: 原則2年間という利用期間が定められています。限られた期間内で成果を出す必要があります。就職保証ではない: 就労移行支援は就職を支援するサービスですが、利用すれば必ず就職できるという保証はありません。ご本人の努力や意欲も重要になります。工賃(給料)は基本的に発生しない: 就労継続支援A型・B型とは異なり、訓練が主体となるため、基本的に工賃や給料は支払われません。(一部、作業内容に応じて工賃が発生する事業所もあります)事業所による質の差: 提供されるプログラム内容や支援の質は、事業所によって差がある可能性があります。見学や体験利用を通じて、自分に合った事業所を選ぶことが重要です。これらの注意点も踏まえた上で、利用者様がサービスを最大限に活用できるよう、私たち支援者側が的確な情報提供とサポートを行う必要があります。就労移行支援の利用手続きと相談窓口実際に就労移行支援を利用したいと考えた場合、どのような手続きが必要で、どこに相談すれば良いのでしょうか。大まかな流れと主な相談先について触れておきます。利用開始までの簡単な流れ一般的な利用開始までの流れは以下のようになります。相談: まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、相談支援事業所などに相談します。事業所探し・見学・体験: 相談先からの情報提供や、ご自身で情報を集めて、興味のある就労移行支援事業所を探し、見学や体験利用をします。利用申請: 利用したい事業所が決まったら、市区町村の窓口でサービスの利用申請を行います。サービス等利用計画案の作成: 相談支援事業所が、ご本人の意向などを聞き取りながら「サービス等利用計画案」を作成します。(セルフプランも可能)支給決定・受給者証の交付: 市区町村が利用の必要性を判断し、支給が決定されると「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。利用契約・利用開始: 受給者証を持って事業所と利用契約を結び、サービスの利用を開始します。手続きには一定の時間がかかる場合もありますので、早めに相談を開始することが推奨されます。どこに相談すればいい?主な相談先を紹介就労移行支援に関する相談は、以下のような窓口で行うことができます。市区町村の障害福祉担当窓口: 制度全般に関する相談や、利用申請手続きを行います。相談支援事業所: サービス等利用計画の作成を中心に、利用に関する様々な相談に応じてくれます。障害者就業・生活支援センター: 就労面と生活面の一体的な相談・支援を行っています。ハローワーク(障害者専門窓口): 求職活動に関する相談や情報提供を行っています。発達障害者支援センター: 発達障害に関する専門的な相談に応じてくれます。各就労移行支援事業所: 直接事業所に問い合わせて、サービス内容の詳細を聞いたり、見学・体験の申し込みをしたりすることも可能です。どこに相談すれば良いか分からない場合は、まずはお住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみるのが良いでしょう。まとめ:就労移行支援の理解を深め、適切なサポートへ今回は、発達障害のある方も利用される「就労移行支援」について、サービス内容の基本から、多くの方が気にされる利用料の仕組み、対象者、利用期間まで、経営者・管理者の皆様が押さえておくべきポイントを中心に解説してまいりました。就労移行支援は、利用者様の就職と職場定着を支える重要な公的サービスであり、利用料に関しても、世帯収入に応じて負担上限額が設けられ、多くの方が無料または低負担で利用できる制度となっています。日々の業務にお忙しい中とは存じますが、経営者・管理者の皆様におかれましては、この制度を正しく理解し、利用者様やご家族へ正確かつ丁寧な情報提供を行うことが、事業所への信頼を高め、適切なサービス利用へと繋げる鍵となります。特に利用料については誤解も生じやすい部分ですので、今回ご紹介したポイントを踏まえ、自信を持って説明にあたっていただければと思います。私たちも、ICTやAIといったテクノロジーの力を活用しながら、皆様の事業運営がより円滑に、そして質の高いものとなるよう、様々な形でサポートを提供して参りたいと考えております。利用者様一人ひとりが自分らしく輝ける社会を目指し、共に知恵を出し合い、協力し合うことで、より良い未来を築いていけると信じております。この記事が、皆様の事業運営と、利用者様へのより良い支援の一助となれば、これほど嬉しいことはございません。